2009/04/14

パレスチナのオリーヴの苗木を100株-1



Olive Project show at the International Center of Bethlehem

オリーヴの苗を100株、カルキリヤで---アンタル

 第1回(2006年5月)が、東京のアート・ホールで開催された「オリーヴ・プロジェクト」展は、新たにカナダ作家の参加を得てベツレヘム国際センターで開催中だった。この展覧会のキュレーターとして(出品者でもあるが)展示のため、わたしはパレスチナに滞在していた。
 東エルサレムYMCAから、イスラエル軍によって引き抜かれたオリーヴの再植樹を促す「オリーヴの樹キャンペーン」への協力要請を受け、Artists Against Occupation (AAO/占領に反対する芸術家たち)10人ほどが、各国(カナダ、フランス、日本、アメリカ)からパレスチナに集まったのが2004年10月、ベツレヘム、カルキリヤ、ナザレなどでオリーヴを取材した。この取材から生まれた作品で構成される展覧会が世界各地で開催され「キャンペーン」が知られ、植樹への寄付が集まることをYMCAは期待していたが、東京での第1回展まで既に1年半が経過していた。第2回展となったベツレヘム国際センターでのオープニングは、2007年1月25日。ベルファストから、遅れてオリーヴ取材に訪れたAAOメンバー、リチャードとクリスティンもこのオープニングに出席した。

 オープニングを終えてエルサレムホテルに移ったわたしは、このホテルの観光部門、オルタナティヴ・ツアーのドライバー、アンタルとオリーヴの苗を求めてカルキリヤに向かった。
 ヨルダン川西岸はガザ回廊と並んで、1948年のイスラエル建国と第一次中東戦争によりパレスチナに残された領域(実際には中東戦争の結果として、西岸はヨルダンに、ガザはエジプトに併合された)、あるいは1967年の第三次中東戦争以来、イスラエルの軍事占領を受ける領域をあらわす呼称となった。その西岸北西部、エルサレムから直線距離で50キロほどにカルキリヤは位置する。信州に植栽されるのだから北のオリーヴを手に入れようと考えてはいたものの、アンタルには別の目論見があって「個人の店で買ってもそのひとの懐を潤すだけ、でもアルアマルで買うなら利益はすべて聴覚障害者の支援に使われるんだ」と、75キロほどだろうか(イスラエル・ナンバープレートのワゴンで、西岸の道路封鎖や検問所を避け、イスラエルのハイウェイを使う)遠出の意義を力説する。「ぼくの寝室もアルアマルの木工所の家具で設えたんだ」と。
 アルアマルの圃場に着くとシートベルトを外しながら「苗木1株、いくらと考えている?」とアンタルが訊く、「5ドル」とわたし。3年もの1株3ドル(日本で買うなら30ドルは下らない)、それに土を洗い落として(土付きでは輸入できない)水をしみ込ませたボロで包む手数料を含めた金額である。アンタルは交渉を担おうと考えているらしい、何しろここに案内したのは彼なのだから。
「1株あたり5ドルでいかがですか?」とアルアマルの所長、ワリード。妥当な金額だから値切らない。「いいわ、苗木は3年もの、土を洗い落とすのも水をしみ込ませた布で包むのもすべて含めて」「ええ、苗木は3年ものと4年もの(3年ものだけでは100株揃わないらしい)、段ボール箱に梱包して輸出の段取りまですべてこちらで。どちらの運送会社を使いますか?」とアルアマル。布ではなく土の変わりにピートモスをビニールポットにつめて水を含ませるという。交渉成立、圃場から街中のオフィスに移動する途中、アルアマルの作業所、木工所とアルミサッシュ工場に立ち寄る。アラビア語で交渉していたアンタルもさすがに手話の心得まではなく、木工所で戸棚を作っていた聴覚障害のふたりの青年たちとの会話は不可能だった。オフィスで甘い紅茶を飲みながら、500ドルの領収証を受け取る。輸出にあたって、ニッポン農水省の許可証が必要とのことだった。エルサレムに戻る車中「あしたの朝、運輸会社をいくつかあたった方がいいね、アラメックスとDHLと他にも」とアンタル。

 翌日は日曜だったが東エルサレムの殆どは営業している。アラメックスとDHLをまわり成田への輸送料を訊ねる。支店長はアルアマルに電話して、段ボール箱の容量を確認すると計算機を叩く。2,500ドル、オリーヴの代金と合わせて3,000ドル、ニッポンで買うのと変わりないなら高くはない。何より(当時)建設途上の読書館の庭に植栽するオリーヴは、パレスチナのものでなければならないというのだから。どの支店も、植物の輸出にはニッポン農水省の許可証が必要と口をそろえる。
 東京の美術館出版部門に電話して、農水省に植物輸入の「許可証」なるものについて問い合わせるよう依頼する。明日は月曜だから農水省も「営業日」だし、と。

(つづく)
 関連サイト:日本YWCA: パレスチナ オリーブの木キャンペーン募金

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